ラルジャン
7月 20th, 2023 by PureJyam
「ラルジャン」 1983
「バルタザールどこへ行く」の監督ロベール・ブレッソンの遺作である。これと「スリ」のブルーレイがなぜか廉価版で出たので、こちらを買ってみた。多分「スリ」も買うだろう。
原題は「L’Argent」で直訳すると「お金」であり、まさに「お金」の話。
偶然偽札を掴まされてしまったことで、運命の歯車を狂わされる男の悲劇を淡々と描く。前に見た「バルタザールどこへ行く」も感情表現を抑えた演出だったが、17年後の今作ではその演出がさらに強化されているように見える。男の運命は過酷であり、通常の映画であれば大きな感情の発露があってしかるべき部分でもほとんど表情の変化がない。感情を露にしてやり取りするというシーンが全くないのである。出演しているのはほとんどが素人だということだが、このような演出をされたら、プロの役者であれば自分を否定されているようにも感じるかもしれない。
「バルタザールどこへ行く」では、ピアノ曲がサウンドトラックとして使われていたが、今作では音楽すら使われない、唯一登場人物がピアノを弾くシーンで流れるくらいである。この徹底した演出で、ブレッソンはカンヌの監督賞を受賞している。
しかし役者の感情表現を抑えることで、逆に深い絶望と悲しみが浮き上がってくるのは興味深い。ただこのやり方で喜劇を撮ることは多分無理なのじゃないかという気がする。
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