劒岳 点の記

「劒岳 点の記」 2009
前に見た「野獣狩り」で、撮影監督としてデビューした木村大作の初監督作品である。当然ながら撮影も自分で行っている。主演は浅野忠信。他に香川照之、松田龍平、宮崎あおい、役所広司。原作は新田次郎の小説である。
明治40年、日本地図の最後の空白域を埋めるべく剣岳の初登頂に挑む陸軍陸地測量部の苦難を描く。
剣岳はもとより、その周辺の山々で現地ロケされた風景が圧巻である。まさに本物の迫力であり、映画館の大スクリーンで見たら多分それだけで感動してしまうだろう。さすが長年撮影監督として活躍してきただけのことはある。
しかし撮影された絵としては素晴らしいのだが、じゃあ映画としてどうなのかというと、いまひとつぴんとこない。特に人の会話シーンの微妙さが気になってしまった。どこが悪いというわけでもないし、へたくそな演出というわけでもないのだが、なんかぎこちないのである。まぁ初監督作品ということなので、しょうがないといえばしょうがないのだが、やはり撮影するというのと監督するというのには大きな違いがあるのだろう。
それとストーリーのバランスがよくないのだよね。前人未踏の剣岳への初登頂がメインの映画にもかかわらず、肝心の登頂シーンが短すぎるのだ。それまでの展開で、散々剣岳登頂が困難なのかを力説しているのに、その困難な部分がほぼ描かれないまま頂上についてしまっていて、盛り上がるべきクライマックスがない。
恐らく、実際に現地で困難な部分を撮影しようとすると、かなり危険なことになってしまうので、現実問題として無茶できなかったのではなかろうか。かといって、そこをセットやCGでやってしまうと、それまでに描いてきた本物の風景までもが、偽物っぽくなってしまうためそれもできなかった。監督の本物へのこだわりが逆に映画としての物足りなさを生んだようにも思える。
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