風の谷のナウシカ
年末に放映されていたからというわけでもないのだけれど、漫画版の方を読み返したてみた。写真で1巻のみ雰囲気が違うのは、初版のためカバーが付いていないせいである。1982年9月発行なので、ほぼ40年前の作品なのだねぇ。
まとめて読むのは多分数十年ぶりなので、細かい内容はほぼ忘れていた。改めて通しで読むと物語の密度の濃さに圧倒される。1巻ごとに少し休まないと読み進められないくらいだ。これを読むと映画版の物語は、単なるダイジェストに過ぎないことがよくわかる。しかし、ここまで複雑な内容を2時間程度の中に収めた脚色はさすがとしかいいようがない。まぁ原作者本人が脚本を書いているというのもあるだろうが、要素の取捨選択がまさに職人芸と言える。
漫画版では非常に重要な役割を負う土鬼を排除し、トルメキア王家のごたごたも削除、本来土鬼が行った王蟲の引き寄せ作戦をペジテの生き残りにやらせることで、物語のスケールを限界まで圧縮している。漫画版での物語は、トルメキア、土鬼、周辺諸国という人の住むほぼ全域を巻き込んだ戦乱の中で腐海と人間の存在の真実を追うという壮大なお話だが、映画版では、あくまで風の谷を中心にしたこじんまりとした小規模な物語として再構成した感じ。全くの別物と言ってもいいかもしれない。この重要な要素を躊躇いなくぶった切れるところが才能なのだろう。下手な脚本家なら切り切れずに中途半端に設定を入れ込んで、結局説明不足になってしまうというパターンに陥るところだ。最初に漫画版を通読したときにも感じたが、この物語の圧縮術はほんとに素晴らしい。
もっとも宮崎駿監督本人は、やはり映画版のラストにはあまり納得していないらしいですけどね。漫画版のあのラストを見ると映画版はあまりにも牧歌的すぎる。しかし映画としてはクライマックスからラストへの流れとして、ああする以外ないとも言えるので、それはそれですごい。